嘘ですべてがダメになる(宇治市在住の20代男性Aさん,債務整理の失敗事例)
相談前
20代男性のAさんは無類のパチンコ好きで,過去にも多額の債務を負って返済が滞り両親に助けられたことがありました。結婚して子にも恵まれ,落ち着くかと思われたAさんでしたがパチンコが我慢できず,1年足らずのうちに300万円近くの借金を負ってしまいました。
受任時の状況
Aさんの債務は全てパチンコによるもので,債権者への返済もほとんどしていません。当事務所に訪れる前に他の事務所に相談した際は,免責不許可事由が著しいので民事再生を勧められていました。
任意整理を希望するAさんに対し,現状の収支では返済原資が不足すること,返済原資をねん出するには家族の協力が必要なことを伝え,家族の協力を得て当事務所に対し分割弁済額に相当する額の報酬を毎月支払うことで,任意整理の可否を判断することになりました。
受任後の経過
Aさんは「嫁には全てを話して協力してもらうことになった。」とのことで報酬の支払いをはじめましたが,3回と持たずに支払いが出来なくなりました。任意整理は不可能と判断して法的整理に方針を変更しましたが,Aさんの「自己破産はしたくない。」との強い希望で民事再生の準備をはじめました。
法的整理の場合は裁判所へ提出する書類が多く,家計収支も報告する必要があるため,任意整理に比べて詳細に聴き取りをする必要があります。当初は家計収支にかかわる資料を提出していたAさんでしたが,必要書類の提出を求めてもなかなか提出してもらえないことが増えてきました。Aさんは多忙である旨を述べていましたので,「それなら代わりに奥さんに資料を持って来てもらいましょう。奥さんも事情を知って協力してくれているし,家計のことは奥さんに直接お尋ねした方がすぐにわかるでしょう。」と伝えたところ,様子がおかしくなりました。
その後も言を左右にして奥さんを代わりにすることは無く,電話連絡に対する応答も遅れがちになり,報酬の支払い(民事再生にあわせて当初より毎月の支払いを減らしたもの)も滞るようになったため,Aさんの自宅に辞任予告の通知を送りました。
辞任へ
辞任予告通知を自宅に送ったところ,Aさんの奥さんから連絡がありました。Aさんの奥さんはAさんが借金をしていることも,債務整理をしていることも全く知らされていませんでした。
Aさんとの信頼関係は完全に破たんしてますので,本来ならここで辞任するところでしたが,「これからは私が協力していくので何とか続けて欲しい。」とのAさんの奥さんのために,継続することにしました。Aさんの奥さんの協力でようやく家計を把握しましたが,当事務所への報酬の支払いは会社の同僚や友人からの借金で賄っていたようで,民事再生による一部弁済の原資は全くねん出できず,自己破産しかないという状況でした。
Aさんは絶対に自己破産はしないと言い,手続に協力をしようとしません。本人が望んでいない以上これ以上続けることは不可能ですので,結局辞任することになりました。
司法書士からの一言
Aさんがその後どうしたのかはわかりません。自己破産はしないと主張しようとも,返済が出来ない以上は債務整理をするしかなく,当事務所の判断では自己破産以外にその方法は無い状態でした。
残念なことに,Aさんのように嘘をついたり隠し事をする多重債務の相談者・依頼者は少なくありません。とは言え,家計収支を見て資料と照らし合わせれば大抵は分かりますので,ごく初期の段階で隠しても無意味だと理解します。Aさんの場合は資料の改ざんと照らし合わせるべき資料を提出しないという合わせ技で露見が遅れたのですが,結局はどうにもならなくなりました。嘘をつくと借金問題の解決が遅れるだけです。
多重債務の解決には正確な現状把握が絶対に必要です。現在の状況を分かっていなくては,将来に向けての改善策は作れません。恐れずに正直に話してください。